ここにタイトル!

町北 朋洋

海の近い千葉の幕張から京都に移って、この4年、毎朝鴨川沿いを歩いて通勤しています。私の前の勤め先のアジア経済研究所は海のすぐ近くだったので、仕事帰りに砂浜まで歩き、ウミネコやカワウ、他の海鳥がいないだろうかと探してから帰宅するということもありました。海のそばでのそういう生活を15年近く続けた後、京都ではガラリと環境が変わって、四季折々違った顔を見せる鴨川に親しむようになっています。川に集まるカモの仲間、カラス、ハト、スズメだけでなく、トビ、アオサギ、シラサギ、他にも名前も分からないものも含めて、これまで以上に鳥と水を身近に感じるようになりました。仕事場のある東南アジア地域研究研究所の建物に急がなければならないのですが、鴨川沿いや荒神橋の上、飛び石の真ん中で束の間、鳥を探してしまいます。

しばらく前に鳥の渡りのことをバード・マイグレーションと呼ぶのだと知ったこともあり、自分の専門の一つのマイグレーションの研究ついでに、鳥と人間の関係についても勉強を始めました。昨年の夏に手に入れた本は環境哲学者トム・ヴァン・ドゥーレン著『フライト・ウェイズーー絶滅の縁の生と喪失』(邦訳は西尾義人訳『絶滅へむかう鳥たちーー絡まり合う生命と喪失の物語』青土社、2023年)。これは石井美保さんが執筆した『現代思想2022年1月号ーー特集 現代思想の新潮流 未邦訳ブックガイド30』(青土社)を通じて知りました。アホウドリ、ハゲワシ、ペンギン、シロヅル、カラスという絶滅の危機にもある5種の鳥を取り上げ、様々な環境に生きる動物と人間の「絡まりあい」に焦点を当てて分析し、鳥の「飛び方・飛行経路」が変化してゆく様子を描いた作品を読むことは、人間社会の理解の助けにもなることを発見しました。そして、ある特定地域の動物や生態を取り上げ、それを人文学的な視点でみてゆくことで、自然科学の議論を積極的に補完していこうという環境人文学の研究の仕方と、その分野を牽引する著者の姿勢から多くを学んでいます。